＜　日航がＭＳＣＢを発行　＞

＜　日航がＭＳＣＢを発行　＞

結論

＊　日本航空の第三者割当優先株発行はＭＳＣＢである

＊　国営銀行によるＭＳＣＢ引受け　⇒　我が国の証券市場は　イカサマ公認の鉄火場と堕した

日本航空が第三者割当優先株発行を正式発表した。

２月２９日に目論見書を発表したが、ほとんどのマスコミは同社の〝業績急回復〟を報道するだけで肝心な問題に触れない。

日本航空の第三者割当優先株　発行条件
発行金額	１，５１５億円
金利	ＴＩＢＯＲ＋３％
普通株転換期間	２０１１年以降
条件	転換価格の下方修正条項つき

優先株の割当先と株数（百万株）
ＵＢＳセキュリティーズ・ジャパン	１００
ＤＢＪコーポレート投資事業組合　（＊）	８０
みずほコーポレート銀行	８０
三井物産	８０
三菱東京ＵＦＪ銀行	６８
双日	６０
三井住友銀行	２２
出光興産	２０
伊藤忠商事	２０
ジャパンエナジー	２０
新日本石油	２０
住友商事	２０
丸紅	２０
コスモ石油	４

（＊）　Development Bank of Japan の略で日本政策投資銀行の投資ファンド

上から二番目のDBJ コーポレート投資事業組合は日本政策投資銀行の投資ファンドである。

日本政策投資銀行は日本航空に３，３００億円も貸し込んでおり、破綻したら大変な騒ぎに発展しよう。

という事情からナリフリ構わず「毒食わば皿まで」の優先株引受と想像される。

優先株の割当先は日本航空の資金借入先である銀行シンジケート団および機材・什器・燃料等を搬入する業者が中心となった。

金を借りている銀行、商品を購入する〝出入りの業者〟が発行会社の株主となる利益相反は開いた口が塞がらない。

ただし今回の重大問題を論ずるため、後回しにしよう。

この優先株には多くのマスコミが触れようとしない時限爆弾が隠されていた。

日本航空が発行する１５００億円の優先株はＭＳＣＢなのである。

転換価額の下方修正条項が付いた悪名高き Moving strike convertible bonds　に他ならない。

日本語は屈辱感を撥ね返すとき、努めて婉曲な表現を利用する。

全滅　⇒　玉砕　　　　敗戦　⇒　終戦　　　　未成年売春　⇒　援助交際　　　　売春専門個室浴場　⇒　ソープランド

ＭＳＣＢ　⇒　第三者割当優先株

日本航空の下方修正価格の決定式

受け取る普通株式数　＝　優先株主の払込金額　÷　修正価格

第三者割当による株式の発行に関するお知らせ

平成２４年３月１７日以降の毎年３月１７日における修正基準価額が、

交付価額を下回る場合は、当該修正基準価額に修正される。

ただし最低修正価額は当初交付価額の０．５倍（１２５円）とする。

（目論見書の１６ページを要約抜粋）

http://ir.nikkei.co.jp/irftp/data/tdnr2/home/oracle/80/2008/221d087/221d0870.pdf

そもそもＭＳＣＢ（Moving strike convertible bonds ）自体が、ニッポン国で発明された造語である。

欧米ではDeath spiral convertible bonds　（死の螺旋的急落を伴う転換社債）　と侮蔑され、カタギの上場会社は発行できないという。

なぜ日航は第三者割当優先株に固執したのだろうか？

ＭＳＣＢの特徴である転換価額の下方修正条項に着目したとしか思えない。

ご承知のように去年５月から、証券会社が幹事として仲介するＭＳＣＢは発行できなくなってしまった。（表向きは自粛）

最大の原因は野村證券の〝やり過ぎ〟と想像される�。

野村證券は自社が引受けるＭＳＣＢをＭＰＯ（ Multiple Private Offering ）と名付け、登録商標商品にしたほど商売に励んだ。

http://www.nomura.co.jp/terms/english/m/mpo.html

しかしながら、幹事証券自らが社債を引受ける状況は、引受業務と自己売買業務の利益相反に繋がる可能性が大きい。

本来ならば証券業のあり方として許されざる自己否定であろう。

証券会社のアンダー・ライティング（引受業務）には、銀行の与信業務に匹敵する資産の効率的配分の機能が預託されているからである。

引受審査は限界企業を退場させる崇高な使命を持つ

資本は公共の利益に役立つような産業に、また同一産業の中では経営が資本を有効に

利用し得る企業に流入すべきである。

（中略）

もしも資本が長期的利潤を上げていないならば、それは資本が無能な者に委ねられて

いるか、または持続的な需要に役立たない産業に使われていることを意味するであろう。

「会社会計基準序説」第1章から　（ペイトンとリトルトン共著）

財務省財務総合政策研究所研究部

「証券取引法の視点からのコーポレート・ガバナンス」

（上智大学法学部助教授　野田耕志）

証券取引法の開示規制の下で公認会計士・監査法人および引受証券会社は、発行会社

の開示情報の正確性を担保する責任（デュー・ディリジェンス責任）を課されることを通じて、

発行会社のコーポレート・ガバナンスに資する。

http://www.mof.go.jp/jouhou/soken/kenkyu/ron100.pdf

くわえて、ＭＳＣＢの引受手数料のバカ高さが槍玉に上がった。

企業が通常の公募増資を行なうとき、証券会社に支払う手数料は取得総代金の７％前後であろう。

ところがＭＳＣＢは、手数料率が平均１３．５％といわれる。

（「金融再生危機の本質」　大村敬一, 水上慎士共著：　日本経済新聞出版社、２００７年９月が詳しい）

約二倍に相当する法外な引受手数料（？）は大手証券の社内他部門からも「やり過ぎ」の非難轟々、と想像されよう。

結果的に〝 野村のＭＰＯ 〟は、一将功なって万骨を枯らしてしまったのである。

〝情報の非対称性〟とは西部開拓史時代の先住民（Native American）に、旧式単発銃を売る武器商人の商法を思わせる。

強欲な白人が発行会社で、いつも損ばかりする気の毒な個人投資家が先住民。

そこへ「中立の立場で仲介」を旨とする武器商人が、ＭＳＣＢを優先株の木箱に入れて、騎兵隊や白人に売りまくった。

特権的にＭＳＣＢを割当てられた投資家（幹事証券）は、既存株主との〝情報の非対称性〟を決定的に高めてしまう。

日本証券業協会　会員におけるＭＳＣＢ等の取扱いに関する規則（　平１９．５．２９　）

１ＭＳＣＢ等

上場有価証券の発行会社が第三者割当による募集により発行する次に掲げる有価証券

であって、これらに付与又は表章される新株予約権又は取得請求権（以下「新株予約権等」

という。）の行使に際して払込みをなすべき１株当たりの額（以下「行使価額」という。）が、

６か月間に１回を超える頻度で、当該新株予約権等の行使により交付される株券の

取引所金融商品市場における価格（取引所金融商品市場の価格を利用して算出される平均

価格、売買高加重平均価格その他の価格を含む。以下同じ。）を基準として修正が行われ

得る旨の発行条件が付されたものをいう。

http://www.jsda.or.jp/html/kisoku/pdf/c030.pdf

日本航空の転換価格下方修正は日本証券業協会の取扱い規則に�抵触しないよう、年１回に規定している。

同社株は過去に収益が欠損の期間であろうと、株主優待券の発給だけは決して止めなかった。

利回り採算で株式を購入する個人投資家を無視するわけにはいかないからだ。

赤字会社が実施する株主優待券配布は、金券ショップの存在を前提に行われるわけだから実質的なタコ配に等しい。

優待券制度を廃止した途端、株価が暴落することは子供にも分かる。

その優待券は３月末・９月末に支給され、同期間は比較的株価が堅調となる。

転換価格修正期間を３月に設定する姑息かつ周到な根回しに、感心させられるではないか。

日本航空　「第三者割当による株式の発行に関するお知らせ」　３ページより

本株式の普通株式を対価とする取得請求権行使に関する当初交付価額は、発行日後３年後の

日（「決定日」）に、当該決定日の普通株式の時価を基準にした価格又は発行後から決定日まで

の普通株式の株価平均値を基準にした価格のいずれか低い方に決定される。

交付価額は、取得請求期間中、１年に１回、その時点における普通株式の時価が交付価額を

下回った場合、当該時価に相当する価格に下方修正(下限は当初交付価額の５０％)されること

となっており、交付価額の上方修正条項は付されない。

日本航空　「第三者割当による株式の発行に関するお知らせ」　１６ページより

交付価額の修正

交付価額は、平成２４年３月１７日以降の毎年３月１７日（以下「修正日」という。）における修正

基準価額（以下に定義する。）が、当該修正日の直前において有効な交付価額を下回る場合

は、当該修正日以降、当該修正基準価額に修正される。

修正日における「修正基準価額」とは、各修正日の前３０取引日（VWAP の算出されない日を

除く。かかる期間を以下「時価算定期間」という。）のVWAP の平均値（円位未満小数第2 位

まで算出し、その小数第2 位を四捨五入する。）に相当する金額をいう。

http://ir.nikkei.co.jp/irftp/data/tdnr2/home/oracle/80/2008/221d087/221d0870.pdf

そもそも、日航優先株に３％の高金利を賦課した現実を、マスコミはなぜ言及しないのか？

平成の低金利時代に信じられない高金利発行
銘柄	日付	条件	発行金額
すみや	２００８．２	６ヶ月TIBOR＋０．５％。	２０
住友不動産	２００８．２	３ヶ月TＩＢＯＲ＋１．１０％　（２００８～１３）３ヶ月TＩＢＯ�Ｒ＋２．１０％　（２０１３年以降）	１２００
アプラス	２００８．２	ＬＩＢＯＲ＋１．５％	５００
ＪＦＥ	２００８．３	６ヶ月TＩＢＯＲ＋１．６５％	３０００
日本航空	２００８．３	１２ヶ月ＴＩＢＯＲ＋３％	１５００

各社のＩＲページから作成

旧聞に属するが昨年末、ヤマシナの新株引受権取得者に国税庁の査察が入った。

ＭＳＣＢの常連といえるヤマシナの健啖家ぶりに、畑違いの国税庁が目を付けたのである。

会社と受益者が結託して株式発行そのものを〝新規事業〟に仕立てあげ、個人投資家を頭から丸かじり。

ヤマシナの摘発はＭＳＣＢの正体が資金調達でなく、利殖商品の提供であることを国税庁が認定したものではないか。

今までＭＳＣＢの発行を黙認してきた金融庁、証券取引所、日本証券業協会はメンツ丸潰れである。

下方修正条項付き新株引受権（ＭＳＣＢ）の取得を営利事業と認めた国税庁（２００７．１２．３１新聞各紙）

大手ネジメーカー「ヤマシナ」（本社・京都市）が発行した新株予約権を利用し、投資額の１０倍もの利益

を上げる仕組みに投資した関東、関西、東海地方などの約１５の個人、企業が東京、大阪、名古屋などの

国税局の税務調査を受け、総額で約３０億円の申告漏れを指摘されたことが分かった。

国税当局が第三者に割りあてられた新株予約権で得た利益に対し、申告�漏れを指摘したのは初めてという。

国税局は「利益は会社再建を目的にした投資などの対価で、『雑所得』にあたる」と認定した模様。

商品の受渡しも金銭の貸借も、競争の本質は価格・スピード・サービス・継続性と考えられる。

これらの競争によって取引相手が決定する仕組が市場原理である。

「おたくの株式を持ってやるからウチの会社の商品を買ってほしい」

「優先株を引受けてやるから○△期まで金利＊％で借りてくれ」

という押付けがましさは、株主利益の対極に位置する。

まさに縁故資本主義（Ｃｒｏｎｙ Capitalism ）を地で行く商慣習ではないか。

今回の割当で３月２１日まで返事を保留と伝えられる三菱商事は、独禁法第３条の不公正取引制限に抵触を危惧したのかもしれない。

翻って、最大資金を貸出して堂々８，０００万株もＭＳＣＢを引受ける日本政策投資銀行は、いったい何を考えているのだろうか？