< 日航だけ 特別扱いは 証券市場の自殺 >

 

 

日本経済新聞 2009.8.27

経営再建中の日本航空が2006年に実施した大規模な公募増資で、香港の投資ファンドが

空売りで意図的に日航の株価を下げたうえで、安値で同社株を取得し利益を上げた疑いが

あることが27日、分かった。証券取引等監視委員会はファンドの行為が相場操縦にあたる

として取引に関する情報を香港の証券規制当局に提供。関係者を処分するよう求めている。

監視委員会は、香港のファンドが増資の発表後に実施した空売りについて、意図的に株価

を下げる狙いがあったとみて、金融商品取引法で禁じられている相場操縦に当たると判断

しているもようだ。

 

そもそも2006年6月のJAL公募増資は、発表当初からインサイダー取引が囁かれた “ 嘘で固めたファイナンス ” である。

 

日本航空の取締役会が公募増資を決定したのは、2006年6月30日の午後2時過ぎ(2時50分ころ)の決議によるという。

ところが日本経済新聞は夕刊の原稿締切りが午後1時半にも拘わらず、当日夕刊で増資決定を報道している。

常識的に考えて日航社内にインサイダー情報の漏洩者がいたはず、と当初から非難の声が上がっていた。

 

日本経済新聞 2006.6.30 夕刊 一面より抜粋

日本航空が1000〜1500億円規模の増資を実施する方針を固めた。みずほ証券と

ゴールドマン・サックス証券を主幹事とする公募増資となる見通しで30日午後に正式に

決める。

(中略)

日航は2004年に発行した社債に関連し、来春までに約1000億円の返済資金が必要

になる見通し。だが、運航トラブルなどの影響で業績が悪化、自己資金で賄いきれなく

なっている上、銀行からの借り入れ条件も厳しくなっており、増資で調達する資金を充当

する。

 

呆れた話だが外資系のモルガン・スタンレー証券は、日航株を空売り用に1億1500万株も取得し、以下のごとく 同日付 で金融庁に届け出ている。

インサイダー取引疑惑による行政処分よりも、大量保有5%ルールの抵触違反が重罪と認識したからであろう。

 

 

日本航空株 大量保有報告書

報告義務発生日

2006年6月30日

提出先

関東財務局長

氏名又は名称

モルガン・スタンレー証券株式会社

保有株券等の数

115,612,225

発行済株式総数

1,982,383,250

株券等保有割合

5.78 %

 

 

 

ところが今頃になって公募増資期間の取引は、市場規則をほとんど無視した “ 野蛮人の商い ” であった事実が判明した。

 

日本海新聞・東奥日報・下野新聞・愛媛新聞その他 2009.8.27

市場関係者によると、香港ファンドが借りた株を売り、値下がりしたところで買い戻す「空売り」

を日本の証券会社を通じて大量に仕掛けていたことが判明。取引の際には空売りであることを

明示していなかった上、取引成立後も期日までに売った株を相手に引き渡していなかったという。

 

売り注文を受けた証券会社が、顧客の受け渡し遅延 ( 通称:デー・ビー Due Bill ) を野放図に認めたらどうなるか?

株券を持たずに現物の売却注文を出し、下がってから現物を市場で買い戻し、その本券を売却注文の受け渡しに充当させる手法が横行してしまう。

信用取引規制のアップティック・ルール違反どころではない。

株券受け渡し遅延を前提とした証券取引は、資本市場規則を無視した “ 強奪商売 ” なのである。

 

阿漕(あこぎ)なファンドが、外国人であることを言い訳として、受け渡し作業に不慣れだった?

現物の売り注文を執行した後、券面を保有していないことに気がついた?

デー・ビー料金さえ払えば、受渡期日に間に合わずとも文句あるか 」 と開き直られた場合、取引参加者の善意を前提とした決済システムは簡単に悪用されてしまう。

 

デー・ビーとは?

本来の語義は有価証券引き渡し表。正式名称はDB〈Due Bill〉。

株式取引の決済は証券取引所を通じて売り方から買い方へと株式の受け渡しが行われる。

そのとき何らかのトラブルが起きて、売り方の証券会社が買い方の証券会社に株式の受け渡しが困難

になった場合、売り方の証券会社は、その株式に相当する金額を証券取引所に預託したうえでDBを

発行し、それを買い方の証券会社に対して渡し、仮決済を行ったことにする。

そして、株式の受け渡しが可能になった時点で、買い方の証券会社は売り方の証券会社に対してDB

を渡し、株券と引き換える。

このとき、売り方の証券会社は買い方の証券会社に対して、DBと株券の交換を行うまで、約定代金

100円に対して1日4銭のDB料を支払う。

 

そもそも東証が鳴り物入りで普及させた、株券の保護預かり制度と振替決済の利便性は何処に隠れたのか?

30年前の東証に戻り、株券を背中に背負った証券会社の従業員が、茅場町を自転車で走り回っていたのか?

 

株式等振替制度

株式等振替制度とは、「社債、株式等の振替に関する法律」により、上場会社の株式等に係る株券等を

すべて廃止し、株券等の存在を前提として行われてきた株主等の権利の管理(発生、移転及び消滅)

を、機構及び証券会社等に開設された口座において電子的に行うものです。

この株式等振替制度において、機構は、金融商品取引所に上場されている株式、新株予約権、新株

予約権付社債、投資口、優先出資、投資信託受益権及びそれらに準ずるものであって、発行者の同意

を得たものを取り扱います。

http://www.jasdec.com/about/office/outline.html

 

ある特定銘柄のファイナンス期間中に、上記の “ 世の中をなめきった取引 ” が大量執行された場合、東京証券取引所は増資そのものを中止させなくてはならない。

なぜならば 「 無いものを売って、ブツは何処かで拾ってくる 」という株価操縦を認めた場合、証券取引所の秩序も権威も崩壊してしまうからだ。

 

別のケースとして、現物銘柄の上場会社が倒産した時、証券会社とツーカーの不良顧客が株券を保有しないまま、東証で当該株を売却したと仮定しよう。

インサイダー情報が入った場合、先着○▽名様までストップ安直前に売ることが可能だ。

そして翌日の変わり果てた株価で買い戻せば、確実に儲かる “ 打ち出の小槌 ”が誕生してしまう。

30年ほど前、こういった取引を東証2部市場の倒産会社で執行した仕手グループは、関係者1名が東京湾に浮かんだ。

 

東証および会員証券会社が、この現物売り・受け渡し遅延(デー・ビー)を蛇蠍の如く嫌う姿勢は半端でなかった。

こうした行為は証券市場の自殺であり、見逃した東証自体が自己の存在価値否定と自戒していたからだろう。

今回の事件は全世界に向けて Tokyo Stock Exchange は、裏社会の皆さんが物々交換をするブラック・マーケットですよと発信したに等しい。

 

「ほふり機構が存在しながら、株券の所在を確認しないで売り注文を受けた、バカ者業者がいるんですよ」

 

東証はD・Bで受け渡された証券の記番号を調べれば、直ちに何日付で売却された株式なのか判ったはずだ。

証券ビジネスにおける “ 絶対の禁じ手 ” が、なぜ日本航空の売買に関してのみ黙過されたのであろうか?

言うまでもなく増資を完遂させないと、日本航空は資金ショートが必至だったからと想像させられる。

 

東証は何よりも早急に、インチキな売り注文を受けた証券会社名を公表すべきだ。

 

8月30日現在、あまりも度外れな事件の重大性から中央のメジャーマスコミは “ 闇にまぎれたD・B取引 ” を無視したもようである。

 

逆日歩を払っても儲かった 日本航空の空売り

日付

株価(円)

売残(千株)

買残(千株)

信用倍率(倍)

逆日歩

512

303

9,631

10,893

1.13

519

304

10,805

10,529

0.97

526

304

10,563

10,220

0.97

62

299

9,826

9,123

0.93

69

292

11,070

8,855

0.80

5

616

300

10,816

9,221

0.85

5

623

299

11,959

8,925

0.75

630

287

22,433

12,727

0.57

5

7月14

254

35,586

16,249

0.46

150

7月21

215

42,118

26,387

0.63

3

7月28

215

33,087

29,217

0.88

5

84

212

17,416

29,818

1.71

逆日歩は日経新聞発表分で前日の日付

 

 

決済の遅れた株券の記番号をチェックしてみると、売却日以降に購入された株券ではないか、と仮定しよう。

こうした詐欺取引で延命された会社が2008年に、又もや第3者割当増資を実施している。

東証の売買審査部は、3年前の2006年7月に全ての事情を了解したはずだ。

何も知らずに2008年の第3者割当増資を引き受けて「下がった、下がった!」「参ったね!」と、泣いている事法や金法の経理責任者さん!

いよいよの時は東証を善管注意義務違反あるいは詐欺の共同正犯で訴えるべきだろう。

 

http://press.jal.co.jp/ja/uploads/2008.2.29.pdf

 

 

 

お断り

今回の記事は、あくまで株式の本券が受け渡しされる旧来の証券決済を前提に書きました。

物理的なトラブルが発生して券面の授受が間に合わなかったと仮定して。

もし、株券不発行時代の現行様式でD・B取引が行われたとしたら、まさに詐欺そのものです。

この場合は、関係者全員が拘置所送りでしょう。

 

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